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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3524号 判決 1973年3月15日

原告

阿部ミツ

(昭和四四年(ワ)第三五二四号事件・昭和四五年(ワ)第四八一号事件)

ほか五名

被告

長資産業株式会社

(昭和四四年(ワ)第三五二号事件)

ほか三名

被告

朝日火災海上保険株式会社

(昭和四五年(ワ)第四八一号事件)

主文

一  被告長資産業株式会社、同小林三広は各自原告阿部ミツに対し金一二四万三、七二二円およびうち金六九万三、七二二円に対する昭和四三年一一月四日から、うち金五五万円に対する昭和四八年三月一五日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告阿部民也、同阿部信之、同阿部克也、同今中美耶子、同阿部和之に対し各金一〇四万七、四八八円およびこれに対する昭和四四年四月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告長資産業株式会社、同小林三広に対するその余の請求および被告杉並建設株式会社、同小林長金、同朝日火災海上保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告らと被告長資産業株式会社、同小林三広との間に生じた部分はこれを三分しその二を原告らの、その余を右被告らの各負担とし、原告らと被告杉並建設株式会社、同小林長金、同朝日火災海上保険株式会社との間に生じた部分は原告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮りにこれを執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

「(一)被告長資産業株式会社、同小林三広、同杉並建設株式会社、同小林長金は、連帯して原告阿部ミツに対し金六二六万四、四五〇円および内金四八六万四、四五〇円に対する昭和四三年一一月四日から、内金一四〇万円に対する本件判決言渡の日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告阿部民也、同阿部克也、同阿部信之、同今中美耶子、同阿部和之に対し各金二一四万五、七八〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(二)被告朝日火災海上保険株式会社は原告阿部ミツに対し金三五三万四、二二〇円、原告阿部民也、同阿部克也、同阿部信之、同今中美耶子、同阿部和之に対し各金一二九万三、一五六円をそれぞれ支払え。(三)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

訴外阿部民次は、昭和四三年一一月四日午後七時三五分頃、東京都中野区大和町三丁目三三番一号先の横断歩道を横断中、被告長資産業株式会社(以下被告長資産業という。)の従業員訴外市丸紀之運転のジープ(練馬一な三八九五号、以下加害車という。)に衝突され、頭蓋骨々折により死亡した。

(二)  責任原因

1 被告長資産業は、本件加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものである。

2 被告杉並建設株式会社(以下被告杉並建設という。)および被告長資産業は、共に土木建築の請負を主たる業務とし、両社の各代表取締役である被告小林長金と同小林三広とは実の父子であつて、被告長資産業の仕事の九割は被告杉並建設の下請であるばかりか、両社の資産は明確に区分されておらず、従業員も双方の会社の仕事をする関係にあるので、両社は、実質上同一の会社というべきである。

そして、被告小林三広および同小林長金は、共同して被告両社の事業を監督する立場にあり、特に、被告小林三広は、被告長資産業の運行管理者として本件加害車の運行を直接監督する任にあり、また、被告小林長金は、運転者の市丸と同じ屋敷内に住んで同人の日常の行動や勤務状況を監督する立場にあつたものである。

3 本件事故は、前記市丸が、請負人被告杉並建設・下請人被告長資産業の施行に係る工事の現場へ資材を運搬中、前方を十分確認しないまま制限時速を二〇キロメートルも超える時速六〇キロメートルの速度で先行車を追い越した過失により発生させたものである。

それ故、被告長資産業および同杉並建設は、自賠法三条により、被告小林三広、同小林長金は、民法七一五条二項によりいずれも、本件事故に基づく訴外阿部民次の死亡による損害を賠償する義務がある。

(三)  保険金請求権の代位行使

被告長資産業は、昭和四三年一一月一日、被告朝日火災海上保険株式会社(以下被告朝日火災という。)との間で、本件加害車につき、被保険者を被告長資産業、保険金額を対人一、〇〇〇万円、対物五〇万円、保険期間を昭和四三年一一月一日から昭和四四年一一月一日午後四時までとする自動車保険契約(証券番号A一四〇二―三一五九七号)を締結した。

そして、原告らは、被告長資産業に対し前記のとおり損害賠償請求権を有し、同被告は、右保険契約に基づき被告朝日火災に対し一、〇〇〇万円の保険金請求権を取得したのであるが、被告長資産業は原告らに対し右損害を賠償する資力がないので、原告らは、これを保全するため、民法四二三条により、同被告の被告朝日火災に対する右保険金請求権を代位行使する。

(四)  損害

1 積極的損害

原告阿部ミツにおいて支払つた阿部民次の葬儀関係費用のうち五〇万円

2 阿部民次の逸失利益と原告らの相続分

被害者阿部民次は、事故当時六七才の弁護士で、当時の年間所得は三一九万四、〇〇〇円であつたので、生活費をその三分の一、稼動可能年数を一〇年、その間の収入を事故後五年間は右と同額、その後の五年間はその半額として、年五分のホフマン式計算により同人の逸失利益の現価額を算出すると一、三〇九万三、三五〇円となる。

そして、原告阿部ミツは、同人の妻であり、その余の原告らは、いずれも同人の子供であるから、原告阿部ミツの相続分は、四三六万四、四五〇円、その余の原告らの相続分は、各一七四万五、七八〇円となる。

3 慰藉料

被害者阿部民次の死亡により原告らの蒙つた精神的苦痛を慰藉するに足る金額は、原告阿部ミツにつき二〇〇万円、その余の原告らにつき各四〇万円が相当である。

4 損害の填補

原告阿部ミツは、本件事故につき自賠責保険から三〇〇万円を受領した。

また、被告ら主張の弁済の抗弁も認める。

5 弁護士費用

原告らは、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その際原告阿部ミツにおいて、その費用および謝金として判決言渡日に一四〇万円を支払う旨約した。

二  請求の原因に対する被告らの答弁

(一)  昭和四四年(ワ)第三五二四号事件被告らの答弁

(1) 原告ら主張の請求原因事実中、被告長資産業が加害車を運行の用に供していたこと、被告長資産業と同杉並建設とが事実上同一会社であることおよび損害の額の点は否認するが、その余の主張事実はいずれも認める。

(2) 前記市丸が本件事故の当日加害車を運転していたのは、被告長資産業の仕事を終えた後、杉並建設の従業員池田正博から訴外菊地清太郎のために椅子を同人宅まで運搬するように依頼され、被告長資産業の配車係田熊に対し詐言を弄して加害車を乗り出したことによるものである。従つて、事故時における加害車の運行は、専ら、第三者たる菊地又は池田のために行なわれ、被告長資産業は、加害車に対する運行支配、利益を失つていたのであるから、本件事故につき運行供用者責任を負ういわれはない。

(3) 被告長資産業は、一時、請負事業を営み、被告杉並建設の下請をしたこともあつたが、その当時でも該請負の量は全仕事量の三割程度にすぎなかつたし、昭和四三年九月二六日からは、建設機械の賃貸業務だけを営むことにしたため、下請関係は全くなく、ただ建設機械を賃貸することがあるにすぎなくなり、原告ら主張のごとく両者をもつて事実上同一会社といえないことは明らかである。また、被告杉並建設は、加害車の所有者でも使用者でもないし、本件事故時の運行も被告杉並建設の業務とは無関係であるから、加害車の運行供用者に当らない。

(4) 原告らが逸失利益の算定の資料として挙示している所得税確定申告書は、本件事故後の作成にかかるものであつて信用性に欠けるうえ、弁護士の収入は、期間的に著しく増減するものであるから、単に事故前一〇ケ月間の収入を基礎にするのは相当でない。

生活費控除も、被害者民次の職業に照らして少なくとも所得の三分の二、個人の稼動可能年数も、せいぜい七〇才までに限定されるべきである。また、弁護士費用は、本件事故と相当因果関係にある損害とはいえない。

(5) 被告長資産業は、本件事故について葬儀費用一〇万円を支払つた。

(二)  昭和四五年(ワ)第四八一号事件被告の答弁

(1) 原告ら主張の請求原因事実中、被告長資産業と被告朝日火災との間に原告ら主張の如き保険契約が成立したとの事実は否認し、その余の主張事実はすべて不知。

(2) 被告朝日火災が被告長資産業から本件加害車についての保険申込書および保険料を受領したのは、事故後の昭和四三年一一月七日であつて、本件事故当時は未だ原告ら主張の保険契約が成立していないので、原告らの同被告に対する請求は、失当たるを免かれない。

(3) 仮りにそうでないとしても、自動車対人賠償責任保険の約款では、被害者と加害者の間で賠償額が確定されることが保険金請求権行使の前提となつているところ、本件では被害者の賠償額が未確定であるから、被告朝日火災には保険金支払義務がなく、また、債権者代位権行使の要件も充足していない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

昭和四三年一一月四日午後七時三五分頃、東京都中野区大和町三丁目三三番一号先横断歩道上において、同所を横断歩行中の訴外阿部民次が、被告長資産業の従業員訴外市丸紀之運転の加害車に衝突され、頭蓋骨骨折により死亡したことは、被告朝日火災を除くその余の当事者間に争いがない。

二  責任原因

そこで、右民次の死亡による損害に関し、被告朝日火災を除くその余の被告らの賠償責任の有無について判断する。

(一)  被告長資産業、同小林三広について

本件加害車が被告長資産業の所有であることおよび被告小林三広が被告長資産業の代表取締役であることは、被告朝日火災を除くその余の当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1)  被告長資産業は、資本金二〇〇万円、従業員二〇名程度の建設機械の賃貸を主たる業務とする会社であり、前記市丸は、同社の運転手として勤務していたものであること、(2)本件事故の当日市丸が加害車を運転していたのは、被告小林三広が、妻に被告杉並建設の地下室を借りてバーを経営させるために不要になつた椅子を、被告長資産業の仕事の関係で知り合いになつた杉並区役所土木課職員訴外菊地清太郎に贈与する約束をしていたところ、その日、右菊地から椅子を自宅まで選ぶよう依頼された杉並建設の従業員池田正博がさらにこれを市丸紀之に依頼し、同人がこれを引き請けたことによるものであること、(3)本件事故は、運転者の右市丸が前記場所にさしかかつた際、横断歩道の手前で前方を十分確認しないまま、しかも、制限速度を超える速度で先行車を追越した過失により発生したものであること、(4)被告長資産業では、被告小林三広が社長として事業一般を総括するとともに各従業員を直接選任・監督する立場にあつたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、右認定にかかる諸事実によれば、本件事故時における加害車の運行は、その所有者である被告長資産業のためになされていたものであり、市丸の該運転行為も、同被告の事業の執行であるということができる。また、被告小林三広は、被告長資産業に代つて事業を監督する者に該当する。

よつて、被告長資産業は、自賠法三条により、被告小林三広は、民法七一五条二項により本件事故に基づく訴外阿部民次の死亡による損害を賠償する義務があるものというべきである。

(二)  被告杉並建設、同小林長金について

被告杉並建設が土木建築の請負を主たる業務とし、代表取締役の被告小林長金と被告長資産業の代表取締役小林三広とが実父子の関係にあることは、被告朝日火災を除くその余の当事者間に争いがない。

そして、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告杉並建設は、資本金三、〇〇〇万円、従業員約三〇名の会社であり、被告小林三広は、一〇数年間右会社で働いていたが、昭和三九年頃独立して被告長資産業を設立し、同社は一時杉並建設の仕事の下請をしていたこともあつたが、本件事故の当時は重機の賃貸を主たる業務とし、杉並建設自体に貸すこともあつたが、主にその下請業者に対して賃貸し、賃貸料は杉並建設が当該下請業者に支払う代金から差引いて長資産業に直接支払う方法をとつていたこと、被告小林三広は、杉並建設の取締役を兼ね、また、被告小林長金は長資産業の株主でもあることが認められ、被告小林長金本人尋問の結果中右認定に反する部分は、措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、被告杉並建設と同長資産業とは営業上かなり親密な関係にあることがうかがわれるけれども、それ以上に両社を実質上同一会社であると認めるには足らず、従つて、被告長資産業の所有する加害車に対し、被告杉並建設もまた一般的に運行支配および運行利益を有する関係にあるとはいえないし、また被告長資産業の従業員である市丸を被告杉並建設の従業員と同視し、その運転行為を被告杉並建設の「事業の執行」と同視することもできない。

また、(一)項に認定したとおり、本件事故時の市丸による加害車の運転は、被告杉並建設の従業員池田が同人に椅子の運搬を依頼したことによるものであるが、池田の右行為が被告杉並建設の業務として、もしくはそれに関連してなされたものと認めるに足りる証拠はなく、むしろ(一)項認定の経緯に照らすと、前示のように被告長資産業の業務に関連する右運搬行為につき、池田が偶々個人的に連絡の役割を勤めて協力したのにすぎないと推認されるので、このことから、本件事故時の加害車の運行につき、被告杉並建設を運行供用者とし、同被告の事業の執行とみることもできないというべきである。

よつて、被告杉並建設の自賠法三条に基づく責任および被告小林長金の民法七一五条二項の責任は、いずれもこれを肯認することができない。

三  損害の額

そこで被告長資産業、同小林三広の賠償すべき損害の額について判断する。

(一)  積極的損害

〔証拠略〕によれば、原告阿部ミツは、亡民次の葬儀関係費用として三〇万円を下らない支出をしたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、被害者民次の職業、地位等を考慮し、三〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある葬儀費用損害と認めるのが相当である。

(二)  被害者民次の逸失利益と原告らの相続分

原告らと被告長資産業および同小林三広の間で〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

本件事故当時被害者民次は、六七才六ケ月の弁護士で、千代田区神田に法律事務所を構え、弁護士一人(石川清子)事務員三、四名を使用していたこと、同人の所得税確定申告上の所得金額は、事故の前年である昭和四二年分が七八万二、四八二円、昭和四三年分(但し、一〇月まで)が二六六万一、七二九円であつたこと、右昭和四三年分の申告は、本件事故後に原告今中美耶子と当時被害者の事務所で働いていた弁護士石川清子とが書類を整理して申告したものであるが、原告今中美耶子や石川清子は、民次の生前その経理にタツチしていたものではないこと、民次の子は全て独立し、その扶養親族は妻である原告阿部ミツだけであつたことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右認定の事実によれば、本件事故のあつた昭和四三年分の申告額が事故後の、しかも従前その経理にタツチしていなかつた者による申告にかかるものであることや前年分に比して著しく増加していること等からして、その金額をそのまま同人の逸失利益算定の基礎として採用することはできないけれども、同被害者の職業、年令、事務所の所在地、規模等に照らして考えると、同人は、事故がなければ将来少なくともほぼ七五才に達するまでの七・五年間にわたつて稼動し、事故後五年間は少なくとも年間二〇〇万円、その後の二・五年間はその半額の一〇〇万円程度の所得をあげえたものと推認するのが相当であり、また、同人の生活費および公租公課として所得の五〇パーセントを控除するのが相当である。よつて、年五分のライプニツツ方式により同人の逸失利益の死亡時の現価を算定すると、五二三万一、一六七円(円未満切捨、以下同じ)となる。

また、原告阿部ミツが同人の妻、その余の原告らがいずれも同人の子供であることは、原告らと右被告らとの間に争いがないので、原告らの逸失利益の相続分は、原告阿部ミツが一七四万三、七二二円、その余の原告らが各六九万七、四八八円となる。

(三)  慰藉料

さきに認定した本件事故の態様、被害者の職業、年令等本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、民次の死亡に伴なう精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告阿部ミツにつき一七五万円、その余の原告らにつき各三五万円が相当であると認められる。

(四)  損害の填補

本件事故につき、原告阿部ミツが自賠責保険から三〇〇万円、被告長資産業から葬儀費用の一部として一〇万円を受領したことは、右当事者間に争いがない。

(五)  弁護士費用

原告らがその訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その費用および謝金として、原告阿部ミツが判決言渡後に一四〇万円を支払う旨約したことは、本件弁論の全趣旨により認められるが、本件審理の経過、認容額等に照らせば、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、五五万円が相当である。

四  被告朝日火災に対する保険金請求権

次に、被告朝日火災に対する保険金請求について判断する。

〔証拠略〕によれば、被告長資産業の経理担当者であつた石戸正は、被告小林三広から本件加害車について保険に入るよう指示を受け、予めその申込書用紙を用意はしていたけれども、本件事故のあつた昭和四七年一月四日当時は未だ申込み手続をしておらず、事故後の同年一一月六日に至つてはじめてその手続を完了したことが認められる。証人石戸正の証言中右認定に反する部分は、前掲の他の証拠に照らして措信できず、また、成立に争いのない甲第四号証(自動車保険証券)および内第三号証(自動車保険申込書)には申込日、契約締結日および保険料領収日として「昭和四三年一一月一日」と記載されているけれども、前掲各証拠および本件弁論の全趣旨によれば、右自動車保険申込書は、被告長資産業において、日付を事故前に遡及させて記載したものであり、右自動車保険証券の記載は、被告朝日火災において右申込書の記載に従い機械的に記入したにすぎないものと認められ、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、本件事故当時、被告長資産業と被告朝日火災との間に原告ら主張の保険契約は成立していなかつたのであるから、本件事故に基づく被告長資産業の負担した損害賠償責任につき、被告朝日火災は、保険金支払いの義務はないものというほかはなく、従つて、原告らの被告朝日火災に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

五  よつて、原告らの本訴請求は、被告長資産業、同小林三広に対し、各自、原告阿部ミツにおいて一二四万三、七二二円および右金額から弁護士費用五五万円を控除した六九万三、七二二円に対する本件事故の日である昭和四三年一一月四日から、また、右五五万円に対する本判決言渡の日である昭和四八年三月一五日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告阿部民也、同阿部信之、同阿部克也、同今中美耶子、同阿部和之において各一〇四万七、四八八円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四四年四月一八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、右被告らに対するその余の請求および被告杉並建設、同小林長金、同朝日火災に対する各請求は、いずれも、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 浜崎恭生 大津千明)

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